米国研究留学 Feinstein Institutes for Medical Research Becker Lab

留学報告書

2024年4月から2026年1月までの約2年間、アメリカ合衆国ニューヨーク州マナセットにあるFeinstein Institutes for Medical Research(FIMR)に留学させていただきました。FIMRは、ニューヨーク州最大規模の医療システムであるNorthwell Healthの研究部門を担う、世界有数の医学研究機関です。FIMRは複数の研究室から構成されており、私が所属したBecker Labを主宰するLance Becker教授は、Northwell Health全体の救急医学部門長も務めています。臨床現場における救急医療と最先端の基礎研究を結びつける、トランスレーショナルリサーチを精力的に推進されています。

もともと私は、留学が決まっていた夫に同行する予定でした。しかし、夫の留学決定後にBecker教授が来日された際、ご挨拶に伺う機会に恵まれ、その際に「ご主人と一緒にBecker Labで研究をしてみないか」とお声がけいただきました。このご縁をきっかけに、私自身もBecker Labへ留学し、夫婦で研究に携わる貴重な機会をいただくこととなりました。

Becker Labでは、心停止後の蘇生や臓器障害に対するミトコンドリア移植が主要な研究テーマの一つでした。Becker教授は、私が循環器内科を専門としていることを踏まえ、「心臓を対象としたミトコンドリア移植の研究に取り組んではどうか」と提案してくださいました。そこで、これまでの循環器診療の経験を生かせる研究テーマとして、私はドキソルビシンによる心毒性に対するミトコンドリア移植の効果を検討する研究に取り組みました。ドキソルビシンによる心毒性に対し、健常ミトコンドリアを移植することで心機能障害を軽減できるかをマウスモデルで検討しました。その結果、ドキソルビシン投与前にミトコンドリア移植を行うことで、左室収縮機能の低下が抑制され、心機能保護効果が示されました。一方、ドキソルビシン投与後に遅れて移植した場合には明らかな改善効果は認められず、ミトコンドリア移植の効果には投与タイミングが重要である可能性が示唆されました。本研究についてはこれまでに学会発表を行っており、現在はその成果をまとめ、論文投稿に向けて準備を進めています。

研究者、医師として渡米しましたが、最も心配だったのは子どもたちのことでした。英語も十分に分からない環境から現地校生活を始め、戸惑いや苦労もありましたが、友人や先生方との関わりを通じて少しずつ適応し、最終的には語学力だけでなく、自分の思いを伝える力や異文化に適応する力も身につけていきました。私たち夫婦はともに研究生活を送っていたため、実験と子どもの送迎や急なお迎えを両立するのは簡単ではありませんでしたが、同じ研究室にいたからこそ互いの状況を理解し、協力しながら乗り越えることができました。振り返れば、そうした大変な経験の一つひとつが、家族の結束をより強くしてくれたように思います。

当初は医師としてのキャリアを一度中断して渡米するつもりでしたが、多くのご縁とご支援に恵まれ、キャリアを継続しながら研究留学という貴重な経験を得ることができました。私自身にとっても、子どもたちにとっても、そして家族にとっても、かけがえのない時間となりました。

この留学を支えてくださった留学先の先生方、送り出してくださった医局の先生方、しあわせキャリア支援センターをはじめ、多くの皆さまに心より感謝申し上げます。そして、最後までともに支え合ってくれた夫にも感謝しています。

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